シーシュポスの勝利

アクセスカウンタ

zoom RSS ティッタン・タッティンの来歴

<<   作成日時 : 2007/05/29 17:40   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 彼は移民船で生まれました。彼は両親と会ったことがありませんでしたが、この両親も必ず移民船で生まれた人間でした。両親の両親となると移民船生まれかどうかは怪しかったですが、両親の両親の両親、つまり曾祖父母となれば、確実に移民船生まれではありませんでした。曾祖父母の世代ならば確実に基世界の生まれでした。
 基世界とは移民船の出発した場所のことです。彼が10歳の時に消滅しました。彼は保育士に移民船のロビーに連れて行かれ、孤児院の仲間の子どもたちと一緒に、基世界の消滅する光を観測しました。ロビーの天井は普段なら青空を映し出しているのですが、この日は映像スクリーンが切られていて、なにもない白色の空間がみえました。この白色は世界と世界のあいだにある空虚の色でした。この空虚がなんとも恐ろしくおもわれて彼は唾を飲み込ました。辺りを見回すと大人も子どもも老人も皆、天井に広がる無の空間を恐ろしげにみつめていました。押し殺したような沈黙がつづき、空間の果てで豆電球が爆発したような輝きが生じました。誰かが嘆きの声を漏らしました。このあっけのない輝きこそが基世界の消滅の様子でした。なんだこんなものかと彼はおもいました。
 こうして彼は先祖の住んでいた世界の消滅を目撃しました。彼の先祖は自分たちの世界の消滅が近いことを知ると、無数の救済策を試してことごとく失敗し、最後に莫大な労力をはかない希望にかけて移民船を建造しました。地平線を埋め尽くすほどの無数の移民線が建造されました。しかしこれだけあっても世界の住人すべてを救えませんでした。住民の多くは消滅の決まった世界に留まって移民船の出発を見送りました。
 それから長い長い時間が過ぎ、基世界は消滅しましたが、移民船は、どの移民船も移住可能な世界を発見できていませんでした。そのうちに基世界を知る人間がほぼいなくなり、移民船を故郷と考える人々が自然に増えていきました。彼が基世界の消滅を見せられたのは本来の目的を忘れないための教育の一環でした。もっとも多くの住民が彼のように特におもうところがありませんでした。
 やがて移民船の中で新たな動きが生まれました。それはまるで本来の目的に立ち戻ったかのようでしたが、まったく違うものでした。移民船の最初の世代は新しい故郷を探すために旅立ちましたが、この動きは侵略するために旅をするというものでした。
 新しい動きを始めた人々はいいました。確かに今まで基世界に変わる世界はなかった。しかしそれは当然のことだ。基世界はひとつしかないからだ。そうだ、世界はそれぞれ違い、どれひとつも同じ世界はない。基世界のような世界を求めたのではいつまで立っても故郷は得られない。だから私たちのすべきことは故郷を探すべきではなくて、故郷を作ることだ。
 彼らはテラフォーミング派と呼ばれました。その呼び名のとおり他世界を基世界の生態系に改造して移住しようと主張する派閥でした。もとの生態系に多大な被害を与えるテラフォーミングは禁じられていたのでこの派閥は当初を力を得ませんでしたが、長年の移民船生活のために鬱屈した層、環境の変化がないために上層階級になるきっかけを失った下層階級の支持を受けて大きな力を得ました。やがて上層階級にも広がって移民船の主導陣となるようになりました。
 テラフォーミング派は移民船の大規模な改造を行い、テラフォーミング機能を備え、さらに原住生物に対する防御兵器も備えました。
 さて10歳のときに基世界の消滅をみせられた彼はというと、このとき25歳になっていて、アザミ研究所という会社の社員でした。15歳になると孤児院からでなくてはいけなかったので彼は軍隊に入隊し、ここで技術を身につけると軍を辞めて、民間の会社に入って技術者になったのでした。ここで軍から縁遠くなったはずでしたが、アザミ研究所は軍の依頼で防御兵器の制御プログラムを製作することになったので、また親しくなりました。むしろ軍隊出身者の彼は会社から重宝されるようになりました。
 防御兵器の開発はとても面白く彼は楽しく仕事をしました。幸福な無名時代でした。彼が夢中で仕事をしているうちにテラフォーミング派の考えはほかの移民船にも広がっていきました。すると本来は散会して効率良く探索するはずの移民船が終結するようになりました。そして移民船から居住地区を切り離して他の移民船につないで大規模移民船を造るようになり、残った居住地区のない船は改造が成されて、空母やテラフォーミング施設を備えた工場船になりました。このように移民船は移民船団となり、最後には軍隊のようになってしまいました。
 しかし彼は仕事の忙しさにかまけてそんなことはどうでもよくおもっていました。そのうちに大きな変化が起きました。船団が世界を発見したのでした。さっそく船団は先遣隊として武装テラフォーミング船を派遣しました。彼はこの船の出航式に立ち会いました。というのはこの武装テラフォーミング船に搭載された兵器群の多くは彼の設計したプログラムで動くからでした。
 武装テラフォーミング船は新世界にたどり着くと、自らの船体で質量爆撃を行って着陸地点の脅威を掃討し、植物が芽吹くように大地を侵食しました。武装テラフォーミング船は大地の奥深くまで根を生やして、資源という資源を根こそぎにし、そのうえ土壌を改良しました。さらに発掘した資源で雲を貫く塔を立てると、船団に対するビーコンと大気改良装置として機能させました。どれもこれも原住生物に対する容赦のない殺戮行動でした。
 しかしこれを知った船団の人々は喝采しました。新世界発見の喜びと自分たちの強大な力に酔いしれました。もっとも幾分か冷静な人々はいて、アザミ研究所の職員はおおむね冷静でした。自分たちの商品の振る舞いを知って少々気分が悪くなったからでした。というわけで武装テラフォーミング船の兵器を開発した彼も高揚した気分ではありませんでした。どちらかといえば不可解な気分でした。やがてこの気分は船団に対する、新世界開発に対する反感となったので、彼はアザミ研究所を辞めようと考えました。
 その矢先に新世界の武装テラフォーミング船が消滅しました。船の送ってきた最後の情報によると何者かの軍事的行動によって消滅させられたようでした。こうして船団は新世界に強大な敵がいることを認識し、新兵器の開発を進め、戦闘部隊の再編成を行いました。この騒動のせいでアザミ研究所はてんてこ舞いになり、彼は辞める機会を失い、勤め続けることになりました。そのうえ彼は最前線に技術顧問として派遣されることになりました。新兵器の調整の仕事をするようにアザミ研究所と船団の主導部から命じられたのでした。
 彼は断ろうとおもったのですが、同じように考えている同僚が断りきれずに最前線行きになったので、手助けしてやろうと考えて自分も行くことにしたのでした。
 しかし彼のそんな気持ちはおごりに過ぎませんでした。実戦を経験した軍隊は彼の在籍した仮想敵しかいない軍隊ではありませんでしたし、原住生物の脅威はかつて経験したことのないものでした。とても他人を助けるどころではありませんでしたが、それでも彼は懸命に戦いました。それは同僚のこともありましたが、船団が徴兵制を強いたので大量の下層階級出身者が流れ込んだからでした。これらの兵士には早く自立するために軍人になった孤児院出身者もいました。
 戦いを重ねるにつれて兵士は死んでいきました。船団では軍の再編成が進められましたが、最前線を支えるのはもはや時間稼ぎで送られてくる新兵と最古参兵扱いを受けるはめになった彼やアザミ研究所の職員でした。
 アザミ研究所の職員は戦闘に参加しなくてもよかったのでしたが、人員不足のあおりを受けてしまって、戦場に立つことになったのでした。立たなければ生還できないという危機感もありました。そしてアザミ研究所の職員は今や指揮官のような立場になっていました。彼などは機動兵器の飛行隊長を務め、戦闘においては先陣をきって突撃するような立場でした。
 自分が生きていられるのは運のおかげだ。それも悪運と彼は機動兵器の狭いコックピットの中でおもいました。そして次の瞬間、原住生物の攻撃によって撃墜されました。
 気がつくと彼は船団にいましたが、身体の半分以上がありませんでした。味方は彼を救出しましたが、現場に必要な機材がなかったので、仕方なく身体の大部分を破棄して脳などの重要部位だけ生存させました。その後、彼は低温冬眠状態で最前線から船団まで送られました。
 この移動のあいだに彼は眠れる英雄とされました。危機的状況で孤軍奮闘した結果、負傷した戦士とされたのでした。もちろん船団主導部が厭戦気分の広がった船団住民を鼓舞するためにマスメディアを操作した結果です。これをアザミ研究所の職員から聞かされた彼は残っていた口と舌を使って床に唾を吐きました。
 屈辱を感じていますと彼はいいました。見舞いに訪れた職員はアザミ研究所の幹部でした。幹部はうなずくとある企てを彼にささやきました。彼はうなずき、幹部が病室から去ったあと、なんて馬鹿らしい、うかれたあげくこのざまかと吐き捨てました。
 彼は失われた身体を機械で補いました。そして船団主導部に最前線行きを求めました。船団主導部は彼の宣伝効果に期待して許可しました。彼としては船団主導部のてこ入れをさせることで最前線で不足している物資を搬入させるためでした。彼はマスメディアの虚像と大量の物資に伴われて最前線に再び派遣されました。
 彼は付与された英雄の虚像を使って最前線を意のままに動かすと、かつて最初のテラフォーミング船が着陸した場所を制圧しました。そして瞬く間に破壊された施設を再生させました。最前線全域で力を持つアザミ研究所の支援のおかげでした。こうして出来上がった施設は船団では原住生物への反撃を行う基地と報道されましたが、実際は資源を発掘して船団へ送るためのプラットフォームでした。アザミ研究所はこの場所を最終基地として建造したので、従来にない大規模な戦力を配置しましたが、テラフォーミング機能も侵略する機能もありませんでした。
 船団は知りませんでしたが、アザミ研究所にはもはや戦争を続ける意思はありませんでした。代わりにアザミ研究所は基世界の住民を新世界の生態系に順応させる研究を総力をあげて始めました。
 アザミ研究所とその彼は船団へ戦闘は膠着状態に陥ったと報告し、さらに現地に適応した新兵器が開発中であり、その暁には打破されるであろうと言い添えました。船団はこんな嘘に騙されるはずもなく現地視察に訪れました。仕方なくアザミ研究所は原住生物の襲撃を装って視察官を暗殺しました。すると船団は最終基地を疑念を抱き、ついにはアザミ研究所の計画を察知しました。
 船団はアザミ研究所とその職員にして虚像の英雄の彼を弾劾し、懲罰部隊を派遣しました。船団ではアザミ研究所の職員が次々と投獄され、さらに彼の出身孤児院に放火されました。幹部は彼にいいました。もはや潮時だと。彼はうなずき、処置を頼みました。
 船団は彼を召集しました。彼は幹部からある処置を受けると船団へ向かいました。このころ船団ではアザミ研究所とそのシンパが一斉に蜂起し、マスメディアを掌握すると、戦争を終わらせる最後から2番目の方法があると船団住民に伝えました。
 基世界の生態系を捨て、身体改造によって、新世界の生態系に順応しよう。応じる者は最終基地に集い、応じぬ者は資源を渡すから次の世界を探すといい。
 船団住民に動揺が走りました。続いて興味が生まれました。アザミ研究所は英雄にされた彼を映し出すと、彼こそが成果だと主張しました。このとき彼はパイロットスーツ姿でしたが、フルフェイスのヘルメットを外すと、もはやその頭部は船団住民のものではありませんでした。彼の身体は新世界の原住生物のものでした。
 こうして船団の崩壊が始まりました。船団の住民は基世界を捨て、新世界へ向かいました。もちろん基世界にこだわった住民もいて、これらの住民は資源を受け取ると、別の世界目指して旅立ちました。
 新世界へ殺到する船団を見ながら彼は髭をふるわせました。しかしその目が見開かれました。というのはかつて船団主導部だった船群から攻撃波が放たれ、船団から抜けた住民を焼き払ったからでした。
 アザミ研究所からの命令が出る前に彼はハンガーに向かうと、機動兵器に乗り込みました。彼は無人機を率いて船団主導部へ突撃すると、長らく最前線で新兵と同僚を守ってきた力を見せつけました。彼の機動兵器と無人機は船団主導部の兵器群を使用不能にしました。するとそこに最終基地から入電しました。原住生物が大規模侵攻を開始したと。
 新世界と船団のあいだにはひとつの世界が丸ごと収まるほどの空間がありました。
 彼は空母に帰投すると、幹部にラビット航法の使用許可を願いました。ラビット航法とは原住生物の技術から流用した移動方法でした。基世界では不可能された空間跳躍による航法でした。
 幹部は許可を出すと彼の機動兵器と無人機をラビット航法で射出、彼は圧倒的な距離を一瞬で突破すると新世界上空に出現しました。
 原住生物は地を埋め尽くすほどの勢力で最終基地に襲撃をかけていましたが、彼は無人機とともに爆撃を開始、撤退に追い込みました。
 そこに一条の閃光が走って無人機3分の1が撃墜されました。月の地表から塵が舞い上がって巨大な原住生物が現れました。
 竜だと彼は呟きました。基世界の伝説上の存在そっくりで、そのうえ伝説のように強力な存在でした。彼は無人機に支持を飛ばして統制射撃を行いましたが、まったく竜に効果がでませんでした。彼は無人機を2つの編隊に別けるとファイア&ムーヴで攻撃しつつ、最終基地と連絡を取りました。軌道エレベーターから質量体を射出するんだ、竜にぶつけてやる!
 ダメです! 悲鳴のような入電が入りました。最終基地の軌道エレベーターは半壊していました。
 了解と彼は応えると無人機に支持を出しました。2番機から5番機はおれに続け、6番機から10番機は突入を支援せよ。彼は無人機を率いて竜に突撃しました。
 彼は光条を避けながら竜の身体にまとわりつきました。動揺したらしく身体を振り回す竜に食らいつき、6番機から10番機に指示、突撃させました。
 5機の無人機は射撃武器を槍のように構え、リミッターを解除、構造上の限界まで加速して竜の身体に穴を開けました。
 まだ不十分だと彼は竜の身体から離れると、2番機から5番機を自爆させました。やったかとおもった瞬間、爆炎から竜の腕が伸びました。彼の視界いっぱいに竜の手の平が広がりました。
 とっさに逃れようとしましたが、彼の機体は捕まえられてしまいました。彼は射撃武器を動かして竜の頭部を狙い、残弾をありたっけ撃ちましたが、複眼が潰れただけで手の力がゆるむ気配はありません。
 竜は口を開けました。彼はやられるとおもいました。しかし光条はやってこず代わりに彼の頭に声が響きました。よくもやってくれたな、猫よ! 尋常に決闘しろ!
 彼は竜の言葉に注目しました。内容ではなくて猫と自分を呼んだことに注目しました。彼は思い出しました。もはや基世界の生物ではなくて新世界、この原住生物がパンゲオン世界と呼ぶ世界の生物なのに。彼はこの世界で最強の種族、猫の身体が与えられていました。
 彼はコックピットを開きました。エアが抜けました。彼は躍り出ると、ヘルメットを外し、パイロットスーツを脱ぎ捨て、機体を掴んでいる竜の腕を伝って走りました。彼はぞくぞくしました。落下するように走りながら彼の身体は基世界の生物からパンゲオン世界の猫の身体に変化を始めました。そして竜の肩口から跳躍した瞬間、彼は完全な猫となり、爪を出して、竜の巨大な頭部を切り裂きました。
 竜は死亡して揚力を生み出す力を失い、墜落を始めました。身体を支えるのに力を使っていたらしく崩壊が始まりました。竜の腕から彼の機体がもげ落ちました。彼は猫の姿のまま機体のコックピットに乗り込むと、自由落下に身を任せました。
 機体は自動制御で地表に着陸しました。
 彼はシートから空を眺めました。
 夕暮れの空を無数のデブリが落ちていきました。
 茜色の空に幾筋も白い光が走りました。
 そこに通信が入りました。彼は入念に顔を洗ってから受信しました。
 相手は彼の姿をみて目を丸くしたあと、ほほえみました。
 原住生物は、紀元神群は撤退しました。最終基地に帰投して下さい。
 彼はうなずくと最終基地に機体を飛ばしましたが、気分が良かったので着陸しませんでした。基地の上空で旋回していると管制官が通信してきました。****、なぜ帰投しない、トラブルか?
 おれはもう****じゃないと彼はいいました。おれは南東からの脅威の眷属ではないよ。おれは、そう、猫だ。おれは、1人で歩く猫だ。

紀元神群についてはこちらをご覧下さい。
http://flicker.g.hatena.ne.jp/keyword/%e7%b4%80%e7%a5%9e
南東からの脅威の眷属についてはこちらをご覧下さい。
http://wiki.livedoor.jp/flicker2/d/%c6%ee%c5%ec%a4%ab%a4%e9%a4%ce%b6%bc%b0%d2%a4%ce%e2%c7%c2%b0
ゆらぎの神話についてこちらをご覧下さい。
http://bothhands.at.webry.info/200704/article_6.html
この企画の遊び方についてはこちらをご覧下さい。
http://bothhands.at.webry.info/200704/article_7.html

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ティッタン・タッティンの来歴 シーシュポスの勝利/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる